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2023/11/10

食中毒の原因と予防

食中毒の原因と予防アイキャッチ

今年もうまい棒川柳の季節がやってきました。

今回は弊社の花井が「食中毒」について話しました。



食中毒というと夏のイメージがあるかもしれませんが、最近はそうでもなく一年を通して安定して発生するそうです。
実際に食中毒にまつわるニュースは季節関係なくよく目にするかと思います。

正しい知識を身につけ、できるだけかからないようにしたいものです。
というわけで今回は食中毒について話したいと思います。

01 食中毒とは

飲食物が原因で起こる急性の健康障害のことです。
ただし栄養不良や過食によるもの、あるいは微量の物質(カドミウムや砒素)を長期間摂取することで起きる健康障害は食中毒とは言いません

人類は、長い歴史の中で「食べられるもの」と「食べられないもの」を経験的に区別し、また「食べられるもの」でも食べ方や処理の仕方によっては障害を引き起こすケースがあることを経験を積み重ねて知識として蓄えてきました(逆に、普通では食べられないものを食べられるようにするふぐの卵巣の糠漬のような例もあります)。

そこに科学や医学の発展が加わり、障害を起こす原因やメカニズムが解明されてきました。そして「食中毒」という専門的な分野として研究が進められ、それに基づいた対策が考えられてきています。

分類

食中毒を分類してみると以下の通り。

微生物による食中毒

  • 細菌性食中毒
    • 感染型
      サルモネラやカンピロバクター、腸管出血性大腸菌(0157)など、食品内で増殖した病原菌を食品とともに摂取することで起きる (但し、カンピロバクターやO157は少量の菌でも) タイプ。
    • 毒素型
      食品の中で病原菌が増殖する際に生じる毒素によって起きるタイプ。黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン、嘔吐型セレウス菌のセウリド、ボツリヌス菌のボツリヌス毒素。
  • ウイルス性食中毒
    食品内に含まれるウイルスを摂取することで起きるタイプ。ノロウイルス、サポウイルス、A型/E型肝炎ウイルスなど。
  • 原虫による食中毒
    クリプトスポリジウム、ランブル鞭毛虫など、昔は感染経路がわからず食中毒に分類されていなかったが現在では食中毒とされている。
  • 寄生虫による食中毒
    戦後すぐの時代は日本人の8割には回虫がいると言われており、学校で虫下しを飲まされ翌日何匹出たのか報告するような時代もあったそう。上下水道の整備やトイレの普及、洗剤などの開発により現在では回虫によるものはほぼないが、代わりにヒラメや馬肉の刺身で起こる食中毒が増えている。

自然毒による食中毒

化学物質による食中毒

青魚を食べることによって起きるヒスタミン中毒、洗剤の誤用、銅などの金属によるものがあります。鉛・カドミウム・砒素が有名だが2000年以降は報告されていない一方、銅製や銅を含む容器にスポーツ飲料やジュースなどの酸性物質を入れたため銅が溶出し食中毒を起こす事例が報告されています。

02 有名なもの

サルモネラ

1885年に米国の細菌学者 Daniel Salmon 博士が豚コレラから新たな細菌を発見し、サルモネラと名付けました。
当初、この菌は家畜に病気を起こすものと考えられていましたが、1888年にドイツで激しい下痢で死んだ牛の肉を食べて59人が病気になり、1人が死亡するという事件の原因究明において、患者が食べた牛肉と死んだ人の臓器を検査したらサルモネラが検出されたため、これが食中毒を起こしたのだと判明したそう。

その後、ヨーロッパのあちこちで牛肉やソーセージを食べてサルモネラ食中毒を起こす事例が頻発し、重要な病原菌と考えられるようになりました。

参考: サルモネラ感染症とは

腸内細菌科サルモネラ属に含まれている0.5 x 2 〜 4μm 程度の大きさの棹状で表面には鞭毛があり動き回る細菌で、動物の腸管内に棲んでいます。その発見以降、牛以外にも豚や鶏、七面鳥、ウズラ、野鳥、ネズミや野生動物、爬虫類から次々に新しいサルモネラが検出されてきました。

動物の腸管内にいるため、動物の肉骨粉や血液などを原料とする家畜や家禽の飼料はだいたいサルモネラに汚染されており、飼料を食べた家畜や家禽がサルモネラに感染し……という循環ができあがっています。

家畜や家禽を屠畜する過程で枝肉にもサルモネラが感染し、市販されている生食肉からも結構な確率でサルモネラが検出されます。日本だと鶏肉が20〜50%程度、牛豚肉は数%程度が感染するそうです。

当然家畜や家禽の排泄物にもサルモネラがいて、牧場の環境は概ね汚染されているため、侵入するネズミ、野ウサギ、シカなどの野生動物も汚染されており、つまり河川も汚染され、河川に住む魚介類も感染しています。また、家畜の排泄物を発酵させて作る堆肥は、発酵が十分でない場合にはサルモネラが生きているため野菜や果物も汚染されることになります。

鶏卵はサルモネラに対してクリーンと考えられていましたが、1990年頃採卵鶏の卵巣や輸卵管にサルモネラが侵入、寄生し、鶏にストレスが加わると卵が形成される過程で主に卵白が汚染されることがわかってきました(鶏卵内のサルモネラ汚染は1万個に1個ぐらいの確率の模様)。

  • 潜伏期間:10〜42時間 (72時間以上も稀ではない)
  • 主な症状:口から小腸に到達したサルモネラは腸管の生理機能を攪乱して分裂を繰り返す。増殖したサルモネラは腸管の粘膜細胞に侵入して腹痛や下痢(水様便や粘血便)、発熱、頭痛、嘔吐、嘔気などの症状を起こす。発熱は38℃前後が多いが40℃を越える場合もある。死亡する場合もある。
  • 生食肉(ささみ、ユッケ、鶏刺し)や内臓肉(レバーなど)が最も危険だが、それらを触った手指をよく洗わずに調理した惣菜、マヨネーズ、卵焼き、目玉焼きなどからも。
  • ミドリガメ(アカミミガメ)はサルモネラ保有確率が高いことで有名であり、水槽の水やカメを手で触ることで感染。日本で販売されているミドリガメの約半数がサルモネラを保有しており、髄膜炎や敗血症を引き起こすこともあるので注意。

腸炎ビブリオ

藤野恒三郎博士が発見した細菌。
1950年に岸和田のあたりで行商が販売した「しらす干し」を食べて272人が劇症の胃腸炎を起こし、うち20人が死亡。その5年後に横浜の病院で「きゅうりの塩もみ」を食べた120人が劇症の下痢や腹痛を起こし、同博士が調査したところ、食塩を含む培地でのみ発育する特殊な細菌を発見しました。「きゅうりの塩もみ」は、魚を調理したまな板できゅうりを刻み塩をまぶして一晩漬け込んだことが判明。流行状況が5年前の岸和田の件とよく似ていたので詳細に調べたところ同じ細菌であることがわかりました。

その後の研究で、海に棲んでおり海産魚介類に高い汚染があることが判明し、腸炎ビブリオと名付けられました
日本で発見されたが世界中、特に東南アジアやインドでは慢性的に流行が繰り返されています

コレラ菌と同じくビブリオ属に含まれる細菌で、約 0.3 x 2 μmの棹菌で、1本の鞭毛により運動します。食塩が3%程度の環境でよく増殖し、食塩がないと発育せず死滅します。
増殖が速く、サルモネラや大腸菌が37℃の温度条件で約20分で分裂するのに対し、腸炎ビブリオは半分の10分で分裂します。10℃以下では増殖しません。

  • 潜伏期間: 4〜96時間
  • 主な症状: 水様性あるいは粘血性の下痢、腹痛、発熱、嘔気。特に上腹部に激しい痛みがあり、白血球数も増えるので虫垂炎と誤診されることもある。
  • 冬期は発生せず、夏期は腸炎ビブリオ汚染の発生率が高い。夏期は室温も高いため食されるまでに腸炎ビブリオが大量に増殖して食中毒が多発する。
  • 食中毒の原因食品は生食する海産物(刺身、寿司など)が圧倒的に多いが、まな板や包丁をや手指経由で他の食品が汚染されたケースもある。

2002年頃までは年間で発生件数300〜500件、患者数約12,000人、死者3〜9人と日本を代表する食中毒でしたが、それ以降は減少し、2013年(猛暑)には発生件数3件、患者数60人とかなり少くなりました。これは厳しい規制を施行したためと考えられています。

腸管出血性大腸菌(O157)

「大腸菌」は出産数時間後の新生児の糞便にもいることがわかっており、人が一生にわたって腸管内に保有している常在菌ですが、食中毒を起こすのはそれらとは異なり、胃腸炎を起こす特別な遺伝子を持った大腸菌です。

1978年にカナダの研究者が下痢の患者からベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞)を破壊する毒素を産生する大腸菌を発見。ベロ毒素産生性大腸菌と報告しました。
1982年には米国の 2 つの地域で下血を伴う劇症の下痢症が流行し、調査したところ同じチェーンのハンバーガー屋のビーフハンバーグを食べた人が患者であり、原料の牛肉とそれら患者からO157:H7という大腸菌が検出されこれが原因であると特定されます。前述のベロ毒素産生性大腸菌とも一致することがわかり世界的に注目されるようになりました。

ベロ毒素遺伝子を持つ大腸菌にはO26, O111, O145, O103など100種類ぐらいある中、O157が最も発生頻度が高いです。

通常の大腸菌と同じく、2.0〜6.0 x 1.1 〜 1.5μm ぐらいの大きさで、44.5℃で発育します。
牛以外に羊や山羊も保有しています。豚も保有しているという報告はあるが保菌率は高くはないそうです。

  • 潜伏期間: 2〜3日、遅くて8日という場合も
  • 主な症状: 激しい腹痛、水様性下痢。子供だと血便を伴うことが多い。
  • 日本では1984年頃からO157による事例が見られ、1996年には世界にも例のないような全国的流行。
  • 適切な治療を施さないと死亡に至るため「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」により診断した医師からの届出が義務化されている。

牛は高い確率で持っているので、牛肉の生食(ユッケ・刺身)、牛レバーの生食による事例が多く見られ (「焼肉酒家えびす ユッケ集団食中毒事件 - 2011」など)、また焼肉でも高頻度で発生しています。肉そのもの以外にもサラダ、漬けもの、タレなどが汚染されているケースもあるので注意が必要。

予防策としては、牛肉の生食は避けること。または75℃で 1 分以上の加熱が望ましいとされています。
牛レバーは現状では殺菌、消毒する技術がないため2012年から食品衛生法に基づき生食禁止となっています。牛レバー販売者は中心温度が63℃で、30分以上加熱しなければいけません。

カンピロバクター

牛の流産の原因菌として、現在で言うカンピロバクターが流産菌と呼ばれていました。1957年に米国の研究者が下痢症状のある患者の血液からしばしば流産菌に似た菌が検出されることを発見しましたが、当時の技術では確定には至りませんでした。
その後、1972年にベルギーの研究者たちが流産菌が食中毒の原因となることを突き止め、食中毒の原因菌としてのカンピロバクターが確立されます。

全世界で下痢患者についてカンピロバクターの検査を行ってみたらどの国でもサルモネラよりも多く検出され、一躍食中毒のトップに。
ただ、当時の日本では腸炎ビブリオが幅をきかせており、カンピロバクターは次席の位置を占めていました。

カンピロバクターは少量の酸素を要求する微好気性細菌で、通常の大気中や酸素のない嫌気的条件下では発育しません。
S字形の螺旋細菌 (幅0.2〜0.8μm、長さ0.5〜5μm) で、両極に鞭毛を1本ずつ備えていて螺旋状に動き回ります。酸素に触れると徐々に死滅し、また乾燥には極めて弱いです。

  • 潜伏期間: 1〜3日、長いと7日という報告も。
  • 主な症状: 下痢、発熱、腹痛、嘔吐。乳幼児は下血を伴うことが多い。
  • 発症後にギラン・バレー症候群を起こすことがありとても怖い。

家畜・家禽は高い確率で保菌しており、屠畜・解体の過程で汚染が起きやすいとされています。特に鶏肉では汚染が起きやすく、食用の牛肉・豚肉はだいたい数%なのに対し、鶏肉は50%程度の汚染率。
大気に暴露することで死滅しやすいものの、食肉を保存する10℃以下の低温条件では1週間以上生存します。ただ、凍結すると徐々に死滅していきます。

ウェルシュ菌

ウェルシュ菌は人や動物の腸管常在細菌であり、あらゆる地域の土壌中にも広く分布しているため、ただの雑菌で食中毒の原因菌とは考えられていませんでした。1957年に英国の食中毒学者が詳細に調べて食中毒の原因菌であることがわかります。

酸素がない嫌気的条件下で増殖する棹状の細菌で、大きさは 3 〜 9 x 0.9 〜 1.3 μm で、酸素があると発育できず死滅します。
また、発育環境が悪化すると棹状の菌体中に特殊な芽胞を形成し、その中心部に遺伝子を包み込むが、この芽胞は熱や紫外線、消毒剤に対して高い抵抗性を持っているのが特徴。

さらにやっかいなことに、人の腸管内に常在するウェルシュ菌は熱に対してあまり強くなく、100℃で10分以下の加熱で死滅するが、食中毒を起こすものは100℃で 1 〜 4 時間の加熱でもピンピンしています。食品内で増えたウェルシュ菌を喫食し、腸管内でさらに増殖したところで芽胞型になる時にエンテロトキシンという毒素を産生 (ブドウ球菌もこれを産生する) 、腸管粘膜に障害が起こるという仕組みです。

  • 潜伏期間: 8〜20時間
  • 主な症状: 下痢、腹痛。発熱、嘔気、嘔吐は少い。比較的軽症ではある。
  • 大量調理した食品に嫌気的条件が備わるような集団給食施設での発生が多く、発生件数は多くないが患者数が多くなる傾向。

「一晩置いたカレー」みたいなのが代表的。作った直後は100℃近いとして、そのまま室温で放置しておくと徐々に温度が下がり50℃ぐらいで菌が増殖を開始、45℃で一気に増殖。その後一旦冷えたものを加熱しても死滅しません。
対策としては、調理が終ったら 2 時間以内に20℃程度まで冷まし、その後は冷蔵庫へ。また調理する時に野菜や魚を流水で十分に洗浄することで入ってこないようにすること。

ノロウイルス

1968年に米国オハイオ州にあるノルウォーク小学校で集団下痢症が発生し、いろいろ調べた結果微小な球形ウイルスが原因らしいと判明。他の地域でも同様のケースが次々に認められ、小型球形ウイルス(SRSV)と仮称されるように。

日本でも1970年に生牡蠣を原因食品とする食中毒患者からSRSVが観察されました。その後ゲノム解析も含めた研究が進み2002年に国際ウイルス命名委員会が人の食中毒を引き起こすSRSVをカリシウイルス科、ノロウイルス属と命名。

約30nmの球形をしたRNAウイルスです。

  • 潜伏期間: 12〜48時間
  • 主な症状: 嘔気、嘔吐、水様性下痢。特に子供だとほとんどのケースで激しい嘔吐。
  • 日本ではやはり牡蠣の喫食期間と連動して発生件数が多くなる。夏期の高温環境だと水中では数日間でなくなるが、冬期だと数カ月間も存在し、小さいので浄化槽もすり抜けて牡蠣などの二枚貝に入る。

誰かが感染すると、近い人は食品経由じゃなくてもあらゆるもの経由で感染するリスクが上がるのがやっかいです。
二枚貝の生食は避け、85℃で90秒以上加熱したものを食べるように、また手指や調理器具は十分に洗浄・消毒・殺菌を行うことで予防できます。

アニサキス

国内では1965年に報告されて以降、数多くの事例が報告されています。
成虫はイルカ、クジラ、アザラシ、トドなどの海洋哺乳類の胃に寄生する長さ20〜30mm、幅0.5〜1mmの線虫。海洋性哺乳類の排泄物中の卵が海水中で幼虫となりオキアミに食べられ、オキアミ → 魚やイカ → 終宿主である海洋哺乳類 という循環を形成します。

魚介類の内臓に寄生しているが、宿主が死ぬと筋肉部に移行し、それを人が食べると胃壁に侵入し激痛をもたらします(痛みはアレルギー反応という話も)。
刺身を食べて数時間後から十数時間後に鳩尾の付近に激しい痛みが起こり、悪心、嘔吐を引き起こします。

内視鏡などを使って物理的に取り除くしかなく、そうしない場合は 1〜3 週間ほど痛みに耐えると自然に消失します。
今のところ死亡例はないみたいです。

対策としては、魚介類を殺したらすぐに内臓と筋肉を切り離すこと。熱に弱く60℃、1 分以上で死滅するので加熱して食べる。低温には強く-3℃でも 1 週間以上生きるそうですが、中心部まで-20℃以下に冷やせれば24時間で死滅します。

03 まとめ

冒頭でも述べたように、食中毒は季節を問わず発生します。ですが、適切な予防措置と知識を持つことで、そのリスクを大幅に減少させることが可能です。
新鮮で清潔な食材の選択、正しい保存方法、そして十分な加熱調理は、私たちの健康を守るために不可欠。毎日の食生活にこれらの習慣を取り入れることで、食中毒から自分たちを守り、健康で幸せな毎日を送りましょう。

04 参考リンク

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